衣食住からアートブックまで、「暮らしの本屋」をテーマに、いつもの日常に彩りを加えてくれる本を取り揃えています

Column

台湾と涌蓋山とお爺さんのログハウス

blank

blank

blank

blank

いい山がある場所にはいい湯がある。
山歩きと温泉は切っても切り離せないものだと思う。
今回も、目的の山に近いローカル感漂う奴留湯温泉 共同浴場からスタート。のんびり湯に浸かっていると、先に入っていた年配の方から不意に話しかけられた。温泉の中で話しかけられることはよくあることだけど、家に誘われることははじめての経験だった。「この後、家でコーヒーでもどうです?」湯船での何気ない会話の中でその言葉が発せられた時、正直自分の中でグルグルと色んな想像をしてしまった。そして何故だか自分でもわからないが「ああ、いいですよ。」と快諾していた。
なんだかここからドラマが始まりそうな出だしだが、特になにもドラマはなく、そのお爺さんの所有しているログハウスにお邪魔してコーヒーをご馳走になりながら身の上話をし30分程度で帰った。ただそれだけだった。
お爺さんのログハウスから山に向かうまでに、普段だったらまず断っていただろう誘いを何故自分は受けたのだろうか?そのことをのんびり考えていたのだが、理由はなんとなくわかっていて、最近すごく惹かれている台湾の文化の影響だと思う。
本当は、違う本のことを考えながら山歩きをしようと思っていたのだが、こんなスタートだったので今回はずっと台湾について考えを巡らせながらの山行になった。

そもそも台湾に興味を持つきっかけになったのは、「Taiwan Book Fair 閲読台湾!」という台湾に関する本を集めるフェアに参加させて頂くことになったからだ。(フェアについて詳しくはこちらへ)参加の条件に台湾関連本でおすすめの1冊の書評を書くというものがあって、折角なので台湾の歴史や文化を学べる本をと思い、『台湾物語「麗しの島」の過去・現在・未来 / 新井一二三(筑摩選書)』を読んだ。これまで、日本の統治時代があって親日といわれている、最近は若い人たちの政治参加やオードリー・タンという興味深い人がいる、それ位の情報しか知らなかった自分のなかでの台湾がまったく違った形をもって浮かび上がってきた。

blank

オランダ、清朝、日本、そして中華民国と外からやってきた植民者によって統治された時代が長く続き、統治された国によって国語がことなるため、世代間でことなる国語とそれによってもたらされるアイデンティティ。長い統治時代を終え、学生運動から民主化へ。
台湾に生きる人々はとても多様だ。特異な歴史の中で生きてきた人々は一人一人それぞれの台湾の物語を持っている。よく、台湾の人は優しいということを耳にするが、その優しさは、これまでの歴史のなかで、それぞれの人々がマイノリティを経験しているからなのでは?と思った。
原住民も、中国本土から渡ってきた客家人も、日本統治下を生きた人々も、第二次大戦後に蒋介石と共にやってきた人々も、一つの台湾ではなく多様な台湾の中で生きてきたのではないかと思う。弱者の立場を、他者を想う気持ちを知っている人々の歴史が台湾の人々を優しくさせるのかもしれない。
その歴史の中で育まれた、台湾の文化や自然観にとても憧れを感じる。日本と同じ東アジアの文化圏ということも大きいのだろうが、西洋に対する憧れよりもすっと自分の身体の中に入ってくる感じがする。まぁ、これは小さい頃から植え付けられた西洋礼讃によるコンプレックスの問題もあると思うが。

blank汽水空港台湾滞在記 vol.1 (汽水空港)

そしてもう一冊。
鳥取にある汽水空港の店主夫妻が台湾の歴史や文化、人の温かさに魅了され、台湾に支店を作るための視察滞在記なる本。読んでるだけで、温かみが伝わってくるような台湾の人々の親切心、そして、皆が生き生きと働いていることが特に印象的に綴られている。内容は主に、台湾支店の可能性を探りながら台湾の独立系書店をめぐる旅行記なのだが、特に気になったのは、台湾の書店主が東アジアを一つの文化圏として捉え、様々な国の書籍を取り扱っているということ。そして、本書の中でもキーワードとして出てくるが台湾の独立系書店には「お洒落と抵抗の共存」があるということ。綺麗に整った店内に香港のデモに関するジンや政治的なメッセージを発信する書籍が並んでいて、書店が政治的なメッセージを発信する場所として機能していることがわかる。

最近見た「一千回のおやすみを」というNetflix限定の台湾ドラマもとても印象的で、とにかく人の優しさや温かみ、台湾人の自然観や人と人との縁の大切さがドラマの中の重要な要素として描かれている。またそれらが現在急速に失われつつあることへの危機感も随所に盛り込まれている。
そう、冒頭に書いたログハウスのお爺さんの話も、この縁を大事にするこのドラマにとても感化されての行動だったのだ。

ここまで書いていて、恥ずかしいのだがまだ一度も台湾に行ったことがない。。
来年くらい、今より気軽に海外に行けるようになったら、真っ先に台湾に行ってみたいと思う。
最近ずっと考えてる懐かしい未来のヒントのようなものがそこにはあるような気がしている。なんとなく、イメージだけれども、理想的な経済のダウンサイジングの先にある暮らしがそこにある気がしてならない。

blank山と雲と蕃人と―台湾高山紀行 / 鹿野 忠雄 (文遊社)

こちらは、日本統治時代に台湾の学校に通い台湾の自然に魅せられた著者による、山の話から植物、昆虫の話、さらには台湾先住民との交流も深まる中で地理学や民俗学などの分野にも話が広がっていく一冊。これから読むので詳しいことは言えないが、、なんだかすごい本に出会ってしまった感がある。

blank

涌蓋山はいい山だ。最後が少し急登だがそれまではのんびりと思索をしながら歩ける山だと思う。
常に開けた景観のおかげで、身体的にも思考もずっと遠くまで見渡せるような気がしてくる。

<今回訪れた温泉>

blank奴留湯温泉 共同浴場
奴留湯(ぬるゆ)という名の通り、ぬるい。体感としては36度くらい。冬場は少し沸かすらしいが、行くなら夏がおすすめ。

blank寺尾野温泉 薬師湯
寺尾野という小さな集落にある小さな温泉。外から見た佇まいもよい。もちろん湯もよい。そしてこちらもぬるい。駐車場がなく路肩にとめて利用するスタイルなので、くれぐれも近隣住民の方に迷惑の内容に利用をお願いしたい。

_

Taiwan Book Fair 閲読台湾!

MINOU BOOKS
10月23日(土) – 11月23日(月)

「読む台湾!」で 時空を超えた台湾旅行

麗うるわしの島・台湾。思い立ったらすぐ行けたはずの台湾に、なかなか行けない日々が続いています。いまのうちに、魅力あふれる台湾の文学・歴史・生活・民族などなどについて、興味を広げ理解を深めてみませんか?

日本各地から個性あふれる20の書店が参加。それぞれの店舗で台湾関連本をセレクトしてお待ちしています。開催期間は10月中旬から11月末まで。(期間は書店によって異なります。)
HPでは、各書店のおススメ本もご覧いただけます。ぜひチェックしてみてください。

ホームページ  https://taiwanbookfair.arm-p.co.jp/
instagram https://www.instagram.com/etsudoku_taiwan/
twitter https://twitter.com/etsudoku_taiwan

ページトップへ