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Column

脱成長からスローイズビューティフルへ

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以前から多少気にはなっていたが、友人と山へ向かう道中に車のなかで何の気なしに話してからというもの、頭の隅に小さく、だかしっかりと染み付いてしまった考えがある。それは、「僕らは自然を求めに山に向かう為に、大量の化石燃料を消費してるよね。」という話だ。
ただこの問題を原理主義的に考えていくと現代社会で生きていくのはかなり息苦しいし、いわゆる一般的な生活はとてもおくれそうにない。とはいえ、この問題をなにも考えることなくこれからも変わらず生活していくというのも何か違う。もう、この問題が自分のなかで”気になって”しまっているのだ。
昨今の様々な社会問題を考える上で自分の選択してきた行動の蓄積が、コロナ禍を経てより明確になってきた感じがある。そのうまく言葉で言い表せないような感覚のようなものが、これまで以上にその問題を自分のなかで気になるものにしている。

と、大層な前置きをしてしまったが、そんなこともあって先日近所の低山へ自転車でアプローチし、そこからの登山を試みた。結果を言ってしまえばとってもとってもしんどかった。家を出た時点から、家に帰り着くまですべて自分の力でことを成し遂げないといけないのだという感覚が絶えず頭の中にある。要は、山に登るまでは楽しそうだろうけど、帰りがしんどいだろうなぁという感覚だ。そのせいもあってか思ったよりも楽しめなかった。まだうまく自分の体力や身体性のようなものをこの登山にチューニングできていない。この身体的な感覚は、自分のなかでまだうまく整理がついていないが、今後このスタイルの登山を続けることでなんだか好ましい効果が現れるような気がしている。というなんとも取り止めのない話だ。。

そもそもの話をすると、以前のコラムからの流れで、「人新生の資本論」を読んだあとに、脱成長をもっと日々の暮らしのなかで具体的に理解したいという思いから辻信一さんの「スローイズビューティフル」を読んだ影響がおおきいと思う。コロナ禍によって、読む本や考えることが以前より、もっと根源的なところに向かっているのだろう。豊かさとはなにか?生きることとは?考えることに意味はあるのか?不安定な時代だからこそ、拠り所となるような問いをたてて、考えていくこと自体が救いになるような気がしている。

この本の中では、「経済成長がなければ豊かになれないのだろうか?」という問いをたて、それに対する答えとしての「スロー」をキーワードに話が進んでいく。食、住居、働き方、時間、身体といった生活にかかわる様々な要素を項目立て、それぞれが内包している問題を指摘しながら「スロー」という手段がそれらにどのように影響していくかが語られる。
経済優先で、早いこと刺激的なこと合理的なこと大きいことといったダイナミックな動きが価値とされている社会において、スロー、ゆっくり、怠惰、より小さくといった生活のイメージはすこしネガティブな印象も受けるが、本書をじっくりと読めばそれは全く違った認識だったと思わされるはずだ。さらには、消費を喚起する為に人為的につくられた欲求にいかに自分自身が侵されているかにページをめくるたびにハッとさせられる。
食の章では、「ファストフードから地域の風土に根ざした自給型の命を育むための食習慣を取り戻す」といった内容、住の章では、「建築家が建てる環境負荷の高い素材を使った住居から、自らの手で、自然素材で作る住居にシフトしていく」といった内容が実際の事例を取り上げながら紹介されている。テイク・タイムの章では、「人新生の資本論」にも書かれていた、文明が進み技術が発達すれば自由な時間が増えるはずなのに、その時間さえも経済成長の為に奪い取られている話が詳しく書かれている。そして面白いのがそのあとに「怠惰」に関する章がくるところだ。早く生きることへのカウンターとしての休むこと、怠けること、非生産的であること、時間を無駄にすごすこと、それらのなかにある豊かさや喜びが書かれている。
また、各章の冒頭で効果的に引用されている、長田弘 ミヒャエルエンデ アレックス・カー、谷川俊太郎、山尾三省といった方々の文章もとてもいい。

脱成長が大事なのはわかるけれど、生活レベルでそれが一体どういうことなのか?どういった効果をもたらせてくれるのか?うまく掴めないという方には是非一度読んでほしい。
この本は、より遅く、より小さくということは、懐古主義でも経済成長へのカウンターでもなく、より人として生きることを考えた先にある「答え」、それ自体を生きていく為に必要なことだと教えてくれる。本来、人間がもっている「快楽、楽しさ、幸福、幸せを感じる能力」。幼い頃は持っていたであろう感覚を思い出しながら、スローに生きていきたい。

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朝倉市にある古処山(859m)には初めて登ったが、登山口から続く紅葉や山頂付近のツゲの原始林、ところどころ豪雨災害の影響でコースが不明瞭になっているものの整備された登山道など、随所に大事に手が入れられている山なんだろうなと感じさせられた。歩いていてとても気持ちがいい。麓の秋月も合わせておすすめしたい。

そして、朝倉方面の温泉といえば、朝倉市の福祉施設でもある「卑弥呼ロマンの湯」だ。なぜ卑弥呼でなぜロマンかは考えず、まずお湯がよい。街中でありながら源泉掛け流し。とろっとしたアルカリ性のお湯が体に染み入る〜。露天はないものの天井も高くて建物も立派。

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