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interview with Cicada

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interview with
Cicada / TAIWAN

2009年の秋、作曲とピアノを担当する江致潔 (Jesy Chiang)を中心に
結成され、現在は4人組で活動する室内楽アンサンブル。
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許罡愷Kung-Kai Hsu|violinist
楊庭禎Ting-Chen Yang|cellist
江致潔Jesy Chiang|pianist

Q1.新型コロナの感染が拡大してからの2年間はどのように過ごされていましたか?
音楽について、生活について教えてください。

Ting-Chen Yang:
2年前のコロナ発生時、私たちは日本ツアーから台湾に帰ってきたばかりでした(東京公演は直前で中止になりました)。その時は社会の緊張感が伝わってきて、コロナに罹ったり、他の人にうつしたりすることを恐れていたんです。政府がきちんと管理してくれたおかげで、短期間で普通の生活に戻ることができました。
コロナの影響で、公演や活動が中止になることもありましたが、私は元気でした。みんな同じ(状況)だからでしょうね。私は家にいるのがとても好きなので、うまく順応できていると思います。

Kung-Kai Hsu:
仕事の影響が最も大きかったかな。(コロナの)前は月10回程のライブがあったものの、コロナの影響で全てなくなってしまいました。
収入がだいぶ減り、オンラインレッスンしか残っていませんが、その代わりに生活がシンプル
になって、リズムが遅くなってきています。「今日どんな料理しようかな。」「どっか人のいないところで探検したり、散歩しようかな」と思うようになって、日常生活の楽しみを味わうことができました。
そして私はコロナ禍で、妻と出逢えました。この「chill」の時期に息子もできました。コロナ禍、悲しみもある、喜びもあるじゃない?と思います。(笑)

Jesy Chiang:
Cicadaのパフォーマンスがキャンセルされましたが、幸いフリーランスであることで、仕事的にはそんなにダメージは受けませんでした。家にいることが好きだし、自分で料理するのも好きです。月に1、2回程、休みの日に登山やキャンプを計画しています。その他の時間はほとんど家で仕事と創作です。たまに夜に近辺の自然歩道で散歩したりもします。なので(台湾では)コロナが一番ひどい時でも生活がそんなに変わらなかったし、慣れも早かったです。今、徐々にコロナによる制限が緩められてきていますが、ほぼ同じ生活スタイルをしています。

Q2.音楽や本といった文化的な物事の価値が、「移動」と、人との「交流」が制限されるコロナ禍で、自身と向き合う時間が増え再認識されたように感じています。
コロナ禍以前と以後で自身の音楽や音楽への向き合い方がどう変わったか、もしくは変わらなかったか教えてください。

Ting-Chen Yang:
月刊誌「The Affairs(週刊編集)」を購読するようになりました。世界的な出来事を知ることができ、毎月届くのが楽しみです。

Kung-Kai Hsu:
コロナ禍であった良いことは、多分急に文学と近づいたことかな。妻は作家なので、彼女からの影響を受けて、台湾の作家が少しずつ分かってきて、本への興味を持つようになったんです。
また、コロナ禍でロックダウンになった時に特に外食したくなりました。そのため、少し制限が緩まった時に、私たちはレストランを大事に選んで、この細やかな幸せを大事に味わいます。コロナ禍のおかげで、日常を大事にすることができた気がします。

Jesy Chiang:
コロナ禍で音楽と本の重要性が高くなってきた気がしています。この時期(コロナ禍)たくさん辛いことがあるけど、その一方で生活のペースを緩めたり、自分の考えと向き合えたり、そしてゆっくり本を読んだり、CD一枚を聞いたりする時間もたくさんできるようになってきた人が多いと思います。
台湾では2021年5月から10月の間にコロナが一番ひどい時期でした。私は音楽の創作以外、長年にわたって書籍編集者としても務めています。私と一緒に働いてきた多くの著者はこの期間を使って、一生懸命本を書いています。そのこともあり年末に出版の希望が多いため、私の編集業務がフリーランスになって以来、編集した本が多い一年間になりました。これが私にとってコロナ禍の面白い現象です。

Q3.コロナ禍での台湾の状況はどうですか?

Jesy Chiang:
人とのコンタクトが制限されているので、生活のクオリティ、特に自宅の環境を整えることにより気を配っています。私は家の植物たちにかける時間を増やし、自然を生活に取り込むようにしています。同居する家族とのコミュニケーションが増える中、お互いに時間をかけて理解を深めていきました。世界中が苦痛に覆われるのを目の当たりにしながら、身近にいる家族がお互いをより大事にするようになりました。また、この時期はまるで世界がひとつになったように、より繋がっているように感じています。
コロナ前の快適だった生活の中では「世界がひとつになる」ことは想像しがたく、とても抽象的でした。世界が同じ困難を前にした今、国同士も助け合えるのだということを強く実感しています。
この場を借りて、台湾が最もピンチな時期にワクチンを寄付してくださった日本に心より感謝します。

Q4.意図せずして、この間の変化により自身の音楽や活動が社会からの影響を多大に受けているという事実に気づかれたと思いますが、それについてどう感じていますか?

Jesy Chiang:
コロナの時期、他のアクティビティと比べると、登山はそこまで影響を受けていないし、マスク着用必須の制限もないので、この二年間で台湾の登山者が増えてきています。元々山林をテーマにしたCicadaもこの期間で山林に関する創作計画を続けています。幸いコロナの影響を受けずに、インスピレーションを得るために山に行くことが普通にできています。それに今こそ山のテーマに関する注目が集まっている気がします。

Q5. この間に変わった(もしくは変わらなかった)価値観を出発点として自身の音楽が今後変化していく実感はありますか?

Ting-Chen Yang:
探求を止めない。私は音楽に応用できる新しいテクノロジーの知識を探求していきたいと思っています。

Kung-Kai Hsu:
私は音楽の体験の変化は一時的なものだと思っています。5Gの時代が進み、音楽はよりオンライン化していくでしょうが、VRの技術は未成熟で、ライブ・コンサートの体験が取って代わられることはないでしょう。

Jesy Chiang:
新しい作品を創作しています。辛い時期を経験したので、できる限り前向きで内省的な内容を考えています。新作を通して、大自然の癒やしの力を感じてもらえたら幸いです。

Q6.自分が今所属している国や地域、社会についてどのように捉えていますか?

A. Jesy Chiang:
台湾の政府からよく守られている気がします。今までの平和な日常生活ではあまり感じなかったのですが、このコロナによる危機にはっきりと政府の努力を感じることができました。コロナ禍はまるで鏡のように、みんなが共同体として厳しいルールでも一緒に守って団結していることを映しています。
それにワクチンの入手の大変さにより、この世界の中での台湾の立場もよく分かりました。

Q7.これからの展望をお聞かせください。

Ting-Chen Yang:
私たちは活動を続けていきます、すぐに皆さんに会えることを願っています。

Jesy Chiang:
私たちは今頑張って創作しています。新作が2022年に発表できると思います。
川の源流を探し、台湾の山奥まで足を運びました。台湾のいのちを孕むはじまりをもう一度認識したような作品です。また皆さんに新作をご紹介できるのを楽しみにしています。

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recommended books
雨の島 / 呉明益 (河出書房新社)

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Cicada / TAIWAN
2009年の秋、作曲とピアノを担当する江致潔 (Jesy Chiang)を中心に結成され、現在は4人組で活動する室内楽アンサンブル。人々がセミを形ではなく音によってその存在を知ることから、この名前が付けられた。2010年にÓlafur Arnaldsのライヴのオープニング・アクトとしてでデビュー、アルバムPiecesが台湾で大ヒットを記録し、いくつかのリリースと共に瞬く間に台湾で最も勢いのあるアーティストに成長した。
2013年、台湾の西海岸をテーマとしたCoastland、東海岸と太平洋からインスピレーションを受けたLight Shining Through the Sea2作を発表。表裏一体となるこの二つのアルバムでは、土地を擬人化し、海洋汚染やあらゆる環境変化を表現。後にFLAUよりアルバム Oceanとしてコンパイルされ、初のワールドワイド・リリースを果たした。翌年にはグループの初期作をまとめたコンピレーションFarewellをリリースし、初来日ツアーも成功を収めた。海洋生物や都市に住む鳥や猫などに捧げられたアルバムWhite Forestを挟み、今年結成10周年を記念した新作アルバムHiking in the Mistをリリースする。

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